第9代理事長のごあいさつ
このたび片野坂真哉理事長の後任といたしまして、「価値創造フォーラム21」の第9代理事長に就任することとなりました霞エンパワーメント研究所の早川でございます。おかげさまで今回、前理事長の片野坂様のお力添えで、会長をやっていただいている資生堂社長の魚谷雅彦様、全日空副社長の志岐隆史様に専務理事、サントリーホールディングス専務の有竹一智様に監事としてさらに1年留任していただくこととなり、心より感謝申し上げたいと思っております。
片野坂前理事長の力強いリーダーシップの下で、「価値創造フォーラム21」の20周年記念イベントとして第3期「価値創造リーダー育成塾」を日本経済新聞社様と共催で実施しました。おかげさまで日本経済新聞社様をはじめとする各方面の皆様より高い評価をいただき、今後も日本経済新聞社様と共催で、年に1回はオープン・フォーラムというかたちで継続して実施していくこととなりました。今年は12 月に実施することとなっております。
今回の8本のプログラムをまとめまして、3月28日に刊行されましたのが『経営の美徳』という本でございます。本日、海外出張を1日早く切り上げて駆けつけていただきました野中郁次郎先生と、これまで3年間にわたり理事・コーディネーターをつとめていただいた米倉誠一郎先生のお二人の監修というかたちでこの本を完成、日本経済新聞出版社から「価値創造リーダー育成塾」の3冊目の本として出版することとなりました。皆様のご支援に心より感謝申し上げます。
私自身、これからのフォーラムの方向性につきまして、新しい時代に向けてさらなるステージの進化を構築していきたいと思っております。現在のフォーラムの中核的プロジェクトである長期的なコア人材の育成をめざす「エグゼクティブCHO協議会」、さらにデジタル時代の経営戦略を推進する「エグゼクティブCIO協議会」、この二つの協議会のCHOとCIOの皆様を中心として、これからの新しいステージを構築していきたいと考えております。私自身これから1年、全身全霊をつくして任務を遂行していくつもりですので、どうかよろしくお願い申し上げます。
ところでこのフォーラムができましたのは1998年の4月、まさにアジア通貨危機に端を発した金融危機の真っただ中でした。実はその前年の1997年12月に私が独立して霞エンパワーメント研究所を設立し、初めての著書『クオリティ・マネジメントを求めて』を出版しました。その出版記念パーティーの後でダイエーの中内㓛様と資生堂の福原義春様が、「早川さん、ぜひ新しいフォーラムをやろうよ、応援するから」ということで立ち上げたのが「価値創造フォーラム21」であり、その意味から中内様と福原様は私どもフォーラムの“生みの親”といえます。
当時は、シェアホルダー・バリュー最盛期だったわけで、このときに福原義春様と富士ゼロックスの小林陽太郎様、このお二人の経営理念―「企業価値とは、社会的価値、文化的価値を含んだ奥行きの深いもの」を基軸としてスタートさせたのであります。その後のフォーラム活動の展開の流れの中で、三井不動産の岩沙弘道様のお客様価値から始まる「価値創造サイクル」という概念、全日空の大橋洋治様の「クオリティで1番、顧客満足で1番、価値創造で1番」という経営理念、さらに野中郁次郎先生と中村鴈治郎様(現坂田藤十郎)との特別対談の結果生まれた野中先生の「絶対価値の探究」という概念、さらに慶應義塾大学の嶋口充輝先生の提示された「絶対の競争への視座」、こういうものが現在の「価値創造フォーラム21」の中核的理念になって、今日までのフォーラムの発展を支えて来たわけです。
今日のフォーラムの前身は、京セラの稲盛和夫様、レナウンの稲川博通様、さらにサントリーの佐治敬三様たちのご支援で1981年1月にスタートし、その後17年間活動した「QMフォーラム」です。それを受けて1998年からの「価値創造フォーラム21」がこの3月までで21年間活動し、合計38年間にわたって私自身はずっと事務局責任者としてその裏方をつとめて参りました。私たちがこれらのフォーラム活動を通じて学んだことは、「価値を創造し続ける企業には、数値化できない企業文化や組織に脈々とした企業遺伝子が存在すること。価値創造の原点には社会や顧客に対する価値創造があること。さらに絶対価値の創造と深化がそれぞれの企業の持続的発展につながること」であります。
2008年9月にリーマン・ショックがあり、そこから今日まで10年7カ月経っているわけですが、現在の理事会構成メンバーの皆様はリーマン・ショックを乗り切る局面で、当時の社長を支える経営の中軸におられたわけであります。皆様リーマン・ショックを乗り越えた後、グローバル化と急激なデジタル・ネットワーク化の流れの下で、“絶対の競争”を通じて今日を切り開かれて来られたと思っております。片野坂様と魚谷様、東京海上ホールディングスの永野毅様、JFEホールディングスの林田英治様をはじめ他の理事会構成メンバー、幹事会メンバーの皆様に共通しているのは、胆力をもって常に困難に真正面から取り組み、グローバルな視野の下で“絶対価値を探究”している経営者であるということです。
それからリーマン・ショックを、90億ドルのモルガンスタンレーへの支援によりその拡大を防ぎ、その後のグローバル化とデジタル・ネットワーク化の推進にやはり同じように“絶対の競争”を通じて力強いリーダーシップを発揮されて来られた三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行会長、三菱UFJ証券ホールディングスの長岡孝会長をはじめとする皆様にも今日お見えいただいておりますが、最近ではグループとしての一体的な運営も加速して新しい時代へ向けた金融業のあり方を示されていると思っております。フォーラム幹事会メンバーの皆様に加えて、そういう素晴らしい皆様にも本日お集りいただいております。
この5月から「平成から令和」へという新しい時代を迎えようとしておりますが、今日のわが国の抱えている問題は、先ほどの蟹瀬先生のお話ではないですが、冷戦後の問題そのものであると思います。それはまさにバブル崩壊後の“国の漂流の問題”であり、私の言葉でいえば“ThreeDecadesの蹉跌”であります。ある意味で私たちは1980年代中頃からグローバル化の先兵隊として活動して来ましたが、社会人としての私ども団塊の世代の責任は余りにも重いのではないかと思っております。
ちょうど平成元年の1989年、私はクーパース・アンド・ライブランド(C&L)という事務所とグローバルに提携した事務所におり、ハーバード大学がC&Lボストンの中核的クライアントだったところから「グローバル・パートナーの人材育成プログラム」をハーバード大学といっしょに作成する委員会メンバーとして参加し、世界各国から最初の50人がイベント会場に集まって第1回目のプログラムを3泊4日でハーバード大学で実施しました。これが1989年のことで、当時は日米経済構造摩擦がピークを迎えた時期でありました。
その時まさにマイケル・ポーターが売り出し中だったのであり、参加していた日本人は私1人であったことから、彼が私に向かって“ワシのような目つき”で攻撃的な言葉を浴びせて来たのをよく覚えております。ただマイケル・ポーターも竹内弘高先生との付き合いが始まって、最近やはり眼差しが少し柔らかくなったのではないかと感じています。これはまさに本日お見えいただいている竹内先生のおかげだろうと私は思っております。
ところで最近では、AI、IoTなどの技術革新がグローバルに急速に進展する時代を迎えておりまして、私どものフォーラムの特別幹事会社の幹事をやっていただいている三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長監修の『危機感なき茹でガエル日本』という本が、この3月下旬に経済同友会から出版されました。まさに過去の延長線上に未来はないのであり、今日の日本の置かれている状況はそのとおりであろうと私は思っております。
さらに一昨日の4月10日、横浜で開催された資生堂の「グローバル・イノベーションセンター(S/PARK)」のオープニング・セレモニーに参加させていただきました。今の日産のグローバルセンターの隣のブロックに、15階建ての大変素晴らしい研究施設をつくられたわけです。そのときの魚谷社長のスピーチにもありましたが、100年先を見越して絶えざるイノベーションによる「経済価値と社会価値の向上」をめざす、という大変素晴らしい取り組みをされていると感じました。
最後に私自身、これまでフォーラムで学んで来たことをこれからの社会に向けて発信していきたいと思っております。絶えざるイノベーションへの挑戦、価値創造のための競争・戦略ガバナンスの構築、さらなる産業構造の転換の促進、これらを担う次世代リーダーの育成などの分野で、社会的価値創造による持続的な日本社会の再生・発展に向けて寄与していきたいと考えております。今後とも皆様、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
(2019 年4 月12 日価値創造フォーラム21 キックオフ大会より)
2019年4月12日
一般社団法人 価値創造フォーラム21 理事長
早川 吉春